めまいを易しく理解して頂くための
エッセイ「新めまい学」紀伊民報

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めまいを易しく理解して頂くためのエッセイ 「新めまい学」紀伊民報

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「めまいを文明病としての新しい観点から考えましょう」

「めまいを文明病としての新しい観点から考えましょう」

三十歳以上の十人に一人がめまいやふらつきに悩んでいるといわれます。
情報とストレスの社会を背景にした文明病と言えないこともありません。

この病気がやっかいなのは、どの診療科を受診すればよいかがわかりにくいことによります。
内科、神経内科、耳鼻咽喉科、脳外科、心療内科などを紹介してもらうのがよい、と家庭医学書にも書かれています。
それでも、医師による見立て違いに不安を感じることが多いはずです。
脳検査としてのMRI(磁気共鳴装置)の診断精度が上がり、従来のCTでは判らなかった病気までも正確にとらえられるようになり、めまいと脳の関係を見直す動きが出てきました。

昨年十一月、関西の脳、耳、目、くびなどの各科目の権威者による「総合めまい学研究会」
(世話人代表:国立循環器病センター名誉総長菊池晴彦氏)が発足し、事務局長を不肖、私が務めさせて頂きました。

その会では、めまいにはまだまだ謎が多く、臓器ごとに診るタテ割り診療方式では重なり合った原因がつかみにくく、総合的に診断・治療する体制への切り替えが必要になるとの結論です。いわば、めまいを新しい観点から見直す必要があるということです。

現代はパソコン時代でもあり、姿勢の悪さや、目の疲れによるくびこり、くび痛もめまいの原因として重要な位置を占めます。従来、耳を中心にした「めまい学」が、脳やくびを含んだ新しい学問体系としての展開期を迎えているようです。  めまいを文明病としてとらえる視点が、現代人には欠かせない知恵になるでしょう。

02

「めまいとは?」

「めまいとは?」

めまいという病名は、万葉集にも出ているぐらいで、おそらく現在日本にある病名の中で、一番古いものでしょう。
また、めまいの定義自体も古臭く感じられます。  めまいとの病名をメニエール病(耳の一部に水がたまる病気)と思っている人もいます。 天井が回るとかふらふらする、倒れそうになる、真っ直ぐ歩けない、後へ引き込まれそうなどの症状が、すべてめまいという言葉で表現されているのは、何となく変な気がします。
めまいの定義について、アメリカなどでは、めまい、ふらつきをひっくるめて平衡機能障害(体のバランスが障害される状態)として統一されております。それが、日本ではめまいとして表現されることが一般的です。
それでも、ふらつきのために受診している患者さんに、細かく問診してみますと、過去三年とか二十年の間に天井の回っためまいを経験している方が多くいます。そういう意味で、ふらつきの患者さんをめまいと同一的に表現していることも、あながち間違いでないような気もします。
ぐるぐると回る回転性のものか、ふらふらとした非回転性のものかは区別する必要があるように思われます。

しかし、めまいの原因が明らかでありませんので、何とも言えません。  めまいとの病名は、厳密には、やはりアメリカ流の平衡機能バランスの障害とするべきか、と思います。ただ、この病名の欠点は、平衡という漢字が身近に思えないことでしょう。バランス障害とすれば、心の病気にも誤解されがちです。  病名をつけるというのは難しいものです。

03

「めまいは何処の病気か?」

「めまいは何処の病気か?」

めまいの原因はいまだ不明です。現在言われていることが、何処まで正しいのか判りません。  十九世紀中頃、フランスの耳鼻科医メニエールが、めまいを起こして死亡した少女の解剖で、内耳に出血(?)があったと発表して以来、メニエール病が有名になり、今やめまいの代名詞になっているぐらいです。やがて、めまいを耳の病気として考えられる風潮になりました。

それ以前は、めまいは脳の病気と考えられていました。ところが、このメニエールの報告以後、めまいの原因は次第に、あるいはいつの間にか耳鼻科領域の病気と考えられがちになりました。 しかし、めまいやふらつきは、基本的には平衡機能障害を意味するものです。神経生理学的に、平衡機能には・脳、・耳、・目、・くびを含んだ体性感覚の四つの部位が、総合的あるいは相互的に関係したものです。

それがいつのまにか一か所の病気と考えられているのは、理論的におかしなことです。  一部分を悪者にすれば納得するという人間の心理的習性でしょうか? その意味で、何でもメニエールということで、耳だけがめまいの原因であるならば、年寄り皆が、めまいをしていてもおかしくありません。

同じように脳が原因であれば、脳卒中患者の多くにめまいがあってもおかしくありません。  これからの時代、「めまいは何処の病気でしょうか」という基本的な疑問の下で、患者さん自身が、医師と相談することが大切です。  めまいは、いくつかの条件が揃った形で、初めて生じてくる病気と思います。

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「めまいと脳」

「めまいと脳」

めまいの患者さんが最も不安に思うのは、脳の病気のことです。  しかし、めまいの原因としての脳は軽視されてきた感があります。 これらの見解は、脳のMR検査(磁気共鳴装置)が普及する以前に、CTスキャンではめまい患者の脳に病気が発見できなかった時代の産物だと思います。 脳が全身からの情報を統合したり、色々な指令を出す役割を持っていることは、医学的にはわかっていることです。
脳は、大まかにいって大脳、小脳、脳幹の三つから成り立っていますが、従来はめまいの関連は主に小脳を中心に論じられてきました。もちろん特殊な脳の病気(小脳梗塞、聴神経腫瘍など)は、それだけでめまいの原因になるとされていますが、それらの病気はきわめて稀です。小脳、その周辺に問題がなければ、めまいの原因は脳ではないとする意見が一般的でした。

ところが近年、MRを用いた研究によって、めまいには小脳よりも、大脳が関係しているという報告がアメリカより出され、日本でも、私どものこの方向での研究が、評価されつつあります。
アメリカの研究や私どもの成績でも、めまい患者では脳梗塞よりも、むしろ「白質病変」といわれるものが注目されつつあります。この白質病変といいますのは、脳の細胞が変成したもので、その原因は、目下不明です。 また、めまい患者の大脳には前頭葉という部分に萎縮も見られます。この部位は、感情の起伏や、発作的なてんかんみたいな病気とも関連している部位です。  めまいと脳との関係は、今後大きく見直されていくはずです。

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「物語のなかのめまい」

「物語のなかのめまい」

映画や小説の世界にも、めまいは題材になっています。  めまいという病名を一躍有名にしたのは、ヒッチコック監督作品「めまい」でしょう。この映画は、高所恐怖症の主人公が犯罪に巻き込まれていくお話です。映画を見られた方も多いでしょう。  ここで扱われているめまいは、高所恐怖症であって、一般でいうめまいと少し違っています。これは、日本、アメリカでのめまいに対する認識のずれかも知れません。

しかし、映画をあらためて見直してみますと、あらすじや背景に、実に細かい気配りがされているのに気付きます。暗いらせん階段、狭い道でのドライブ、鳴り渡る教会の大きな鐘の音、さらに主人公が持病としてのめまいの結果、うつ病になっていく様子など。実によく出来ています。
これらは、すべてめまいの原因と係わる、脳、耳、目、姿勢などから心の問題にまで触れています。あらためてスゴイ映画と感心させられます。 日本映画でめまいが出てくる印象的なものは、記憶にありません。

池波正太郎作の小説、「剣客商売」に登場する主人公の侍が、随分とめまいに悩まされている様子は、実によく描写されています。  そこでのめまいは、朝、起きがけや、くびの回転によって生じるものです。良性頭位性めまいといわれるもので、一般的には、耳が関係しためまいの代表的な病気であると言われています。  めまい一つをとっても、その原因や、症状を単一的に捉えることには問題があることをご理解頂けると思います。 洋の東西で、めまいの捉え方はサマザマです。

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「めまいと頚」

「めまいと頚」

めまい患者さんの八割以上に、くびこり、くび痛の症状があります。 頚はご存じのように、脳と全身とをつなぐ関所みたいなもので、その部分には自律神経や、全身から脳へ行く血管(頚動脈、椎骨脳底動脈など)が集中しています。

しかしながら、今日の「めまい学」の教科書レベルでは、頚の重 要性についてほとんど触れられていないのが現状です。 めまいの診察にあたる医師から、くびこり、くび痛について質問を受けている患者さんも、ほとんどいません。 頚とめまいの関係を理論付けるのは、目下は難しいことです。
ひとつには、これらの頚の神経が脳や耳に悪影響を及ぼしているとしての考え方もあり、逆にめまい・ふらつきの患者さんでは、自分の体のバランスを保つために無意識的に頚に力が入ってしまう結果とする考えもあります。 原因か結果か、ニワトリとタマゴの話は別にしても、頚の症状を楽にしてあげることによって、多くの患者さんの症状が非常に良くなります。
実際上、鍼灸院にかかっている人たちのなかには、めまいで悩む人が多くいます。

ひょっとして、患者さんは、医者以上に、頚を楽にすればめまいが良くなるということを、経験的に知っているのかも知れません。 パソコン時代になりますと、若い女性で目の疲れや長時間の悪い姿勢からくびこりが生じ、さらに、くびにまともに当たるクーラーも、悪いことをしているのでしょう。 夏場におけるめまいのひとつの原因として、新たに考えるべき問題と考えています。 リストラの時代、クビを大切にして下さい。

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「めまいを文明病としての新しい観点から考えましょう」

「めまいを文明病としての新しい観点から考えましょう」

めまい患者さんには、医者から精神的なものと判断されて、「心因性めまい」と診断されている人がいます。  確かにめまい患者さんには、神経質そうな方が時々います。
心因性めまいを重視する医師たちの考え方は、「一度、めまいで体が揺れていると感じ出すと、その恐怖感がトラウマとなって、自分の体の揺れが気になる」とのようです。私自身は、このような病名には、多少疑問を持っています。いや、多くの患者さんも納得していないはずです。 人間、一度、地面が揺れ、天井が回れば、強い不安感を抱きます。一度きりならそれで良いでしょうが、再び起これば不安が強調、増幅されるのは当たり前です。

その意味から「心因性めまい」は、めまいの原因というよりも、長引くめまいのための二次的結果とも言えます。 いっそのこと「病は気から」という方が判り易いですが、それはめまいに限らず、当たり前のことです。 心の傷や悩みだけが原因なら、ストレスの多い現代人は、常にめまいがしているのでしょうか?

この「心因性めまい」や「自律神経失調症」などという病名は、めまいの原因がはっきりしない時に、つけざるを得ないことがあります。 しかし、医師も、この病名は、できるだけ慎重につけるべきものでしょう。かえって、患者さんを不安にします。 そのような患者さんは、医者の診断に納得しないで、グルグルと何軒もの病院でドクターショッピングします。 心が原因なら、世間の悪口に耐えている医者も、めまいになる筈では?

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問診での「話し上手と聞き上手」

問診での「話し上手と聞き上手」

どんな病気でもそうですが、問診と言われる医者との会話が大切です。めまい患者さんの多くは、医者に話したいことがいっぱいある筈です。  相性が良さそうな医者には、一気にしゃべりまくります。長年、めまいに悩んでいるひとでは、その経過のあらゆることを一気に訴えるような感じです。何軒も行った病院のことを話したりします。グチも言います。

勿論、医者の方は、患者さんの言う細かなことに耳を傾けることは必要ですが、アレコレと話されたのでは、診察に必要な会話が進みません。聞いておかないといけないことが多いのです。 とくに症状やその程度についての表現は難しいものです。グルグル回転するのか、ふわふわ、あるいは、ふらふらといったものか。めまい症状の表現の仕方はひとによって違います。自分が感じる通りに話すのが一番です。例えば、天井は回らないが、自分の脳が自転車の車輪みたいに前後に回る、あるいは、一瞬、地震がいったかと錯覚したと、いう具合です。
まさにめまいサマザマ。

めまいの症状や感じ方は、個人個人で異なります。問診の大切さが解ってもらえると思います。 医者の方も、できるだけ忠実にカルテに記載しますが、一苦労です。そこに「話し上手、聞き上手」と言った医者と患者との「あうん」の呼吸が必要でしょう。 なかには、冗談好きな患者さんもいます。

初診の時に、地震がいったみたいとして来られたある患者さんに、「今度のめまいはどんな感じですか?」と聞く。 「そらセンセ、震度2ですわ」 「・・・・・・」

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「まずは脳MR」

「まずは脳MR」

めまいに対して、どこまで検査をしておくべきかは、患者さんの症状や医者の考え方によっても異なります。まさにピンからキリまでありますが、そのうちのどれが良いかは、難しい問題です。
大切なのは、脳の検査です。中高年のめまい患者さんが心配なのは、脳に異常があるかどうかです。この目的では、脳のMR検査を受けておくことが必要です。CTでは不十分です。  MRは、今日普及してきている「脳ドック」の主役となる検査法です。脳ドックでは、MRを用いて小さな脳梗塞や脳血管のコブなどの奇型が発見されます。
将来的な脳卒中やくも膜下出血を予防するシステムです。  脳に特別な病気のないことを、MRで確認するのと相前後して、耳鼻科医に相談するのが良いでしょう。 耳の検査としては、平衡機能に関係する内耳機能検査が基本です。耳の中に冷たい、あるいは温かい水や空気を入れ、めまいをおこす検査です。多少、うっとおしい部類の検査ですが、大切なものです。

その他、首痛や疲れ目の検査があります。 このようにめまいひとつをとっても、サマザマな検査があります。どこまで調べておくか、それを決めるか、医師とよく相談して下さい。  それでも、きっちりとした検査を受けておくことによる安心感だけで、めまいが楽になることもあります。 ある患者さん、曰く。 「センセ、費用のことも心配ですが・・・」 「・・・・・・」 「今度は、こころの検査ですか?」  それは患者さん自身が診断することです。

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「首こりから治す!」

「首こりから治す!」

めまいがひどく、頭痛や嘔気のある時には、かかりつけ医師への相談や救急病院を受診することが必要でしょう。  しかし、それ以外に大切なのは、多少ふらつきが残っていたりして不安の強い時や、再発を予防するための治療です。
この時の治療のコツは、首こりがあるかないかの判断が基本になります。 もし、首こりのある場合には、首こりに対して、筋肉を緩らげる薬や精神安定剤が効果的なことが多いです。同時に首のこっている部位を指でつまんだり、マッサージをすることをおすすめします。
一度試して下さい。意外と二、三週で効果の出ることがあります。 とくに、首に対する治療に際して必要なことは、首こりの原因となる日常生活への注意です。具体的には、重いカバンを持ち歩かないこと、パソコ ンや読書などで、長い時間同じ姿勢でいること、目の疲れに注意することです。会社でのパソコン業務の時でも、途中で一休みして遠方を眺めたり、背伸びするなどの工夫をして下さい。 ストレスや疲れの出ないように注意して睡眠をよくとるように注意することも必要ですが、そんなことはめまいの残っている時点では、出来そうで出来ないことです。

むしろ、そんなに気にしない方が良いでしょう。勿論、滅茶は止めて下さい。 こうしても治りにくい時があります。そんな患者さんは、めまいが長引き不安感の強い方以外にも、腰痛もある方が多いようです。そんな方では、水泳も試して下さい。

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