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めまいのくび根っこ
めまいの原因に関連した体の部分で、もっとも重要なものが“くび”と考えています。くびから来ためまいのことを「頚性めまい」といいます。ところが、多くのめまいに関する医学書の中で「頚性めまい」については、数行程度しか触れられていないことです。なぜ頚性めまいのことが重視されていないのでしょうか?実に不思議なことです。 しかし、以下に説明しますように、治療上に鍵を握るのは、くびに対する配慮です。 まさに、くびはめまいの“首根っこ”です。
1. 「頚性めまい」とは?
日本めまい平衡医学会の目下の見解としては、『頚性めまいは、頚部に原因があり、多くの場合頚部の回転または伸展により生じるめまいを意味する。その原因に関しては、頚部の骨、筋、靭帯の異常によるもの、椎骨動脈、椎骨動脈周囲の交感神経線維の異常などにあるとされていますが、いくつかの原因が重なったり、連続して起こることも多く、めまいの多彩な症状を伴うことも少なくない。』とされています。 この定義はきわめてあいまいです。人間誰しも年をとるとくびや背中の骨周りには何らかの変化が生じます。まためまいの多くは頚部の動きに関連しています。 この定義に従えば大部分めまいが「頚性」であるにしても過言ではないでしょう。
2. 過去の賛否両論
めまいに関する膨大な医学書の中で、いちばん人気がありますのは、ドイツの神経内科はてな医であるトーマス・ブラント氏の書いた『めまい』という本です。めまいを専門としている世界中の医師が一回は目を通している名著です。ところが、どういうわけか、頚性めまいの存在については、きわめて否定的な見解を述べています。彼は、「頸性めまいはフィクションであろうか?」とする論文まで書いています。反論の根拠には、神経学的に説明できないことによるとしています。
しかし、最近では内野善生氏のくびこりと関連する胸鎖乳突筋から耳への神経回路を実験で証明しています。今や、ブラント氏の意見に対して‘くびをかしげる’あるいは“くびを振る”必要がでてきたと考えるべきでしょう。もちろん、そのメカニズム解明には多角的な研究が必要でしょう。ブラント氏の言うように“神経学的に説明できない” のであれば、“新しい理論”を追求するべきではないでしょうか?
その一方で、アメリカでは頚性めまいを重視するリスレイ氏らの報告もあります。日本でも檜學氏らの研究が有名です。いずれにしても、目下は、賛否両論であるくびとめまいの領域は、もう一度検討し直すことが必要になると思います。
〔注意〕
このような、頭部や体の動きと関係するめまいとして最近メニエール病に代わって有名になってきている耳鼻科的めまいとしての「良性発作性頭位性めまい」があります。この病気の原因は一定の方向に頭や体の位置を変えることによって回転性めまいが生じ、そのメカニズムは内耳にある耳石が三半規管に流れ込むとするものと考えられています。この病気と頚性めまいの区別は困難です。
何故「頚性めまい」が重要か?
めまいにくびが関係していると考えるにはいくつかの理由があります
①約80-90%のめまい患者さんはくびこりを訴えています。
一般にめまいに伴い易いとされている耳鳴、難聴の頻度は約40%ですので、いかにくびこりが多いかをお分かりいただけるでしょう。なお、くびこりは誰にでもある訳ではありません。めまいのない方では、せいぜい20%ぐらいです。たとえ、本人が自覚していなくても、くび周りを慎重に触診しますとほぼ100%にくびこりがあります。それも多くの方は、触診上多いのは左頚部のこりです。なぜ、左かは、リンパ管が左頚部を流れているためではないかと考えています。
②めまいの前兆としても大切です。
くびこりやくび周りの痛みからはじまるめまいも少なくありません。めまいの前に“急に肩がつまってきて”とか“後頭部がしめつけられて”とかの症状も患者さんは訴えます。
③めまいはくびの動作から
大多数のめまい発作のきっかけは、くびの回転や動きに関係しています。「後を振り返る」「頭を下に向ける」「頭を上げる」などの動作です。くびだけではなく、くびから背筋全体の動作として、「朝起き上がる」「寝返り」などもめまいのきっかけとなります。
3. 頚部損傷の原因
それでは、くびこりやくび痛の原因は何でしょうか?
①むち打ち損傷
俗にいう「むち打ち損傷」は、医学的には「外傷性頸部症候群」といいます。この病気の存在は1928年アメリカで提唱され、日本では1960年頃から注目されています。その背景にはクルマ社会の登場による交通外傷の多発があり、さらに、訴訟社会構造の一端を担う病気です。 症状は、外傷後に生じた多彩な症状や愁訴が複合したものです。それらの症状としては、運動障害や神経機能障害以外に、うつ状態、不眠などの精神症状、耳鳴などの耳鼻科的症状、めまいなどの平衡機能障害などの多彩なものです。頭痛、吐気、不安感などもあり、一般的なめまい患者さんの症状ときわめて類似しています。それらの症状の多くは「自覚症状」を基本としており、客観的証明が困難な場面が少なくありません。
②激しいスポーツ歴
そのことについて、当院を受診した三、四十代の方に聞いてみました。その結果、交通事故を含む頭やくびの外傷が約三十パーセント、また、男性では、ラグビーなどの激しいスポーツをしていた人が三十パーセント、女性では卓球、バレーボール、サーフィンなどのスポーツをしていた人が二十パーセントあります。
③幼児期のくび外傷
さらに驚くことに、出産時の状況が不自然な、あるいは異常な方も多くいました。具体的には、緊急の帝王切開、俗にいう逆子(骨盤位)、鉗子分娩、へその緒がくびに巻きついた仮死状態(臍帯巻絡)などです。 これらの不自然な出産の頻度の評価は母子手帳をチェックしてもなかなか困難なものですが、めまいの原因となる先天性因子のひとつになりうるかに焦点を当てた研究をも必要でしょう。
④生活環境
過去のものではなく、今やっている長時間のパソコン作業による眼精疲労や姿勢の悪さも、くび痛の今日的原因のひとつでしょう。さらに詳しく患者さんに尋ねてみますと、家庭内での老人介護からくるくびへの負担、されにそれを支える主婦の負担も大変です。思いがけない夫からの家庭内暴力によるむち打ち損傷までもあります。くびを取巻く生活環境こそ解決すべき健康問題のひとつでしょう。
⑤くびこり対策が治療時にはきわめて有効
「あらゆる医学の理論は、治療と結びついてこそ正しい」としても過言ではないでしょう。くび対策が治療時にはきわめて有効なことは、治療の部分で書いてあります。
⑥くびから説明できるめまい以外の多くの症状
めまい患者さんには、めまい以外の多くの症状があります。頭痛、心の病気、ドライアイ、動悸、息切れ、ほてり、などのいわゆる不定愁訴もくびと関連付けて説明できる時代も遠くないでしょう。
“首こり”と“肩こり”とは違う
非常に大切なことは“肩こりと首こり”とは違うということです。首回りには約20種類ぐらいのややこしい名前の筋肉がありますが、首こりに対応するのは胸鎖乳突筋で、肩こりは主に僧帽筋のこりです。(イラスト) ところが多くの患者さんや医師たちは、このふたつをドンブリ勘定で“まぁ、似たようなもの”と片付けてしまっています。「首こり」とする言葉自体が一般的ではないからです。このことは良く考えれば当り前のことです。「借金で首が回らない」とは言いますが、「肩が回らない」とはいいません。不況の時代、「首を切る」はあっても「肩を切る」はありません。「肩を叩く」です。 首は肩と違う点は6キロ近くの頭と体を支えていることです。首には、食道、気管以外に脳と全身を結ぶ血管、神経、リンパ管があり、さらに、脳脊髄液が頚椎の管を通って流れています。自律神経の主要な部分もくびにあります。このように脳や全身との関係を考えた場合肩ではなく“首”が如何に重要な役割を果しているか、がお分かりでしょう。
4. 頸性めまいのメカニズム
先述しましたように、多くのめまいは、くびの回転や屈曲によって起きるもので、このことは、現在においても、頭位性めまいの診断の重要な判定基準になっていると思います。そのためにも、めまいの原因、平衡機能障害の理論づけといった基礎的研究にもとづき、脳、耳、目、くびおよび脳幹に注意を払った総合的病態や理論の解明が必要であると思います。
くびと脳、耳、目などの頭部臓器との関連性については、古典的には①血管、②神経、③頚部交感神経節の関与した①②③の経路が主体で論じられていますが、それだけでも、めまい患者の多彩的な症状を説明するには無理があります。一般的に“くびとめまい”の関係については血流を中心に説明されています。といいますのは、めまいの原因を小脳や脳幹を栄養する椎骨脳底動脈の血流障害によって説明する方が理解され易いからです。くびの骨の変形によってこの血管が圧迫されるとめまいが生じるとする理論は、「椎骨脳底動脈血流不全症」という有名な考え方です。くびを回転することによって血液が障害されるパワーズ症候群と呼ばれる病気もあります。それでも、非常に珍しい病気です。このような珍しい病気の考え方で一般的な病気の原因を説明するのは問題です。
非常に大切なことは、神経や血管といった連絡よりも、くびとめまいの関連性を論じるにあたって、当然のことですが、④脳と脊髄神経とはまるでモヤシのように連結したもので、くびが全身と頭とを結びつける関所を担当するという解剖学的事実の再認識が必要です。このことは、くびの異常は、脳のみならず、頭部臓器としての目や耳にも関連することを意味します。さらに、⑤のルートとしては、くびが脳脊髄液の通過点であること、が想定されます。換言しますと、「くびから頭部臓器(脳、耳、目を含む) への髄液流が如何に関与してくるか?」の水上ルートも考察されなければならないでしょう。めまいと水あるいはリンパ液との関係は無視できません。メニエール病自体が、内リンパ液としての水の動態理論にもとづく疾患群であることと考えますと、くびの回転が内リンパ液の組成や流れに如何に影響を及ぼしているかも興味ある問題です。最近、脊髄液減少症をめまいの原因疾患のひとつとしている報告は、この病気が決して多いものではありませんがこのような脳脊髄と脳機能とを関連づける概念と対応すると言えましょう。
5. 水流不全症
めまいという一般的な病気は一般的な原因で説明されるはずです。血管や神経以外の“未知のメカニズム”を想定しなければならないでしょう。 上述しましたように、MR上の白質病変も、水分異常を反映している可能性があります。脳血流不全症なる概念に加えて、『脳水流不全症』なる概念の必然性を否定できないとも、検討中です。いずれにしても頚性めまいの病態はきわめて難問でしょう。 従来、くびに対する検査法はほとんどレントゲンに頼ってきました。レントゲン写真では骨の形や並び方ぐらいしか判りませんので、くびの様子を客観的に把握することが困難でした。ところが、近年普及してきたMRは脳以外にもくびに対しても有用な情報を提供してくれます。 MRで発見されるくびの異常としては、
- レントゲンと同様の骨の異常
- 椎間板の変性やヘルニア状態
- 脊髄神経の異常。
- 脊髄神経を取り巻くくも膜下膣とよばれる脳脊髄液の脳への流入スペースの状態がよく判ります。
とくに大切なのは④に相当するくも膜下膣が狭くなっている状態は、めまいの患者さんに高率に見られます。 この異常こそが、「頚性めまい」の本質に迫る異常ではないか、と私どもは注目しています。くびを流れる「水の流れ」が、脳や耳、目などに関連している可能性があります。このことによって、くびの動きがめまいを誘発する事実を説明できる可能性があります。 また、体内の水に関して、蛋白質アクアポリンの発見や体内の水をコントロールする抗利尿ホルモンとめまいの研究に興味の目を向いています。